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【ワールドレポート】 米国民事訴訟におけるeディスカバリとデジタルフォレンジックへの要請

米国マンスリーニュース 2012年1月号

米国民事訴訟におけるeディスカバリとデジタルフォレンジックへの要請

電子的な文書の利用拡大に伴い、米国では2006年12月に連邦民事訴訟規則が改正され、eディスカバリ(電子的証拠の開示)が正式な法手続きとして認められた。eディスカバリの導入により、コンピュータや電子機器などに含まれる電子記録の法的証拠性を分析するデジタルフォレンジックの重要性も増している。本稿では、民事訴訟におけるeディスカバリとデジタルフォレンジックに関する米国の司法・行政機関および民間企業の動向を紹介する。

 

米国におけるeディスカバリの背景

米国では、2006年4月に連邦最高裁判所が承認した連邦民事訴訟規則(Federal Rules of Civil Procedure: FRCP)の改正が同年12月から施行され、電子的に保存されている文書(Electronically Stored Information: ESI)を証拠として開示する手続き「eディスカバリ」が民事訴訟における正式な手続きとして認められた。この改正は、電子メールをはじめとする電子的な文書の利用増加を受けて実施されたもので、ESIを民事訴訟における正式な法的証拠として承認すると同時に、訴訟におけるESI開示手続きの詳細について規定している。主な改正内容は以下の5点である。

  • ESIの承認と定義
    民事訴訟で開示要請可能な証拠として、従来の紙媒体による文書に加え、ESIも該当するとした。また、ESIは電子的に保存可能なすべての情報を指すと定義している。
  • ESI開示計画の策定と当事者間の共有
    eディスカバリに関して後々問題が発生しないよう、ESI提出書式や情報開示手順等に関して、情報開示の要請者と情報を開示する当事者の両者が合意した開示計画を公判開始から99日以内に策定しなければならない。
  • 「合理的にアクセスすることが不可能な(Not Reasonably Accessible)ESI」の扱い
    開示当事者は、開示可能なデータ、および手間や費用等の理由から「合理的にアクセスできない」データを特定し、上記2の期間内に要請者に提示する必要がある。開示当事者が「合理的にアクセスできない」と判断したESIに関しては、裁判所命令がない限り開示する必要はない。しかし、開示要請者が開示強制を申請した場合、開示当事者は「合理的にアクセスすることが不可能」な正当性を立証しなければならない。また、開示要請者が情報開示の正当な理由を示した場合は、たとえ開示当事者が「合理的にアクセスすることが不可能」な正当性を立証した場合でも、裁判所は開示を命じることができる。
  • ESI提出書式の指定
    開示要請者は開示当事者に対し、ESI提出書式を指定することができる。開示要請者が指定しなかった場合には、開示当事者が通常使用している、または合理的に使用可能な書式で提出することが求められる。
  • セーフハーバー条項(Safe Harbor Provisions)
    特別な場合を除いて、通常業務かつ善意による電子情報管理システムの運用の結果ESIが失われたために情報開示が不可能となった場合、裁判所は開示当事者に制裁を加えることはできない。
  • 上記の2点目や5点目からわかるように、規則上は開示当事者に対しても一定の配慮がなされているが、実際の訴訟で要請されたESIの開示を拒否したりESIを消失したりした場合、開示当事者は圧倒的に不利な立場に立たされることが多い。このため米国の政府機関や企業は、訴訟の際に不利とならないよう、ESIの保存・管理体制の整備など、組織内での対策強化を迫られることになった。

     

    司法省による連邦政府機関向けのeディスカバリ支援

    eディスカバリに関する一連のESI開示手続きは詳細かつ複雑であり、訴訟を担当する弁護士だけでなく当事者にもeディスカバリに関する高度な知識と経験が要求される。また、eディスカバリの組織内担当者には、FRCPの規定解釈といった法律面の知識だけでなく、ESIの適切な保存方法などIT面の知識や技術が要求されるため、二重の負担となることが多い。このような状況を考慮して、連邦司法省[英語サイト](Department of Justice: DOJ)は、2011年4月、eディスカバリ関連の研修を実施する法律専門家および技術者集団である民事訴訟eディスカバリ委員会(Civil E-Discovery Committee)を設立した。

    民事訴訟eディスカバリ委員会は、DOJその他の連邦政府機関向けに、民事訴訟でESI開示を要求された際の適切な対処法や手続きの進め方を指導することを主な目的としている。同委員会は、まずDOJ内部の基盤を固めることを目指し、DOJ職員向けの研修プログラムを実施すると同時に、指導・研修の際に使用する連邦政府機関共通のガイダンス策定やベストプラクティスの蓄積を推進してきた。また、同委員会の構成員から選ばれたeディスカバリ事務局コーディネータ(Electronic Discovery Office Coordinator: EDOC)をDOJ内の各事務局に配置し、随時アドバイスを施す体制も構築している。 DOJは今後、研修プログラムで育成したeディスカバリ専門家を他省庁に派遣し、研修プログラムを実施したりEDOCを配置したりする計画で、連邦政府全体のeディスカバリ対応能力の向上が見込まれている。

     

    民間企業によるeディスカバリ参照モデルの策定

    eディスカバリへの対応は、ESI開示に伴って高額の賠償責任を負うことになりかねない民間企業にとっても大きな問題である。米国は訴訟大国と称されるだけあって企業間の係争も多いが、特にeディスカバリに関しては、手続きなどが複雑であることを逆手に取り、ESI対応が万全ではない相手の隙を突いて勝訴に持ち込もうとする事例も増えている。また、ESIの開示に至るまでの情報収集過程や、eディスカバリに備えた日常的な情報管理には多額の費用がかかる。こうした状況に対応するため、民間企業が連携して2003年に設立した非営利組織が「The Electronic Discovery Reference Model」である。同組織は、eディスカバリの法律面に関する知識共有や、IT技術導入・運用におけるコスト削減などを通じたeディスカバリ対策の効率化を目指しており、法律事務所の他、企業のITマネージャ、ソフトウェア開発企業、ITサービス・ソリューションプロバイダなどが参加している。

    同組織の主要な目的は、その名のとおりeディスカバリ参照モデル(Electronic Discovery Reference Model: EDRM)の策定である。eディスカバリ参照モデルとは、FRCPに既定されている複雑なeディスカバリのプロセスを、分かりやすく図式化したもので、第1版は2006年5月に完成し、パブリックドメインに公開された。同モデルでは、eディスカバリのプロセスが情報管理からESI開示までの9段階に区分され、各段階について開示当事者としての対応方法や具体的な作業内容をまとめたガイダンスが策定されている。


    図:eディスカバリ参照モデル(出典: EDRM)

    参照モデルの完成以降、The Electronic Discovery Reference Modelが新たに取り組んでいるのがeディスカバリ対策の標準化である。特に、eディスカバリの中でも最も時間と費用がかかるとされる第2段階の「ESIの特定」と第8段階の「ESIの開示」において、関係者間の認識の違いを最小限に抑えるためのデータの種類や範囲を規定している。同組織が提供する参照モデル・ガイドライン・標準を通じて、開示要請者と開示当事者がある程度共通した認識を持つことで、いざ訴訟となった場合に、両者の審議時間や開示当事者の費用負担を大幅に削減することができる。

    連邦司法省の取り組みと対比した場合の民間企業による取り組みの最大の特徴として、IT企業が活動の中心を担っているという点が挙げられる。EDRMには、eディスカバリのソリューションを提供するIBM、Clearwell、Microsoft、Symantecなどの大手IT企業が参加しており、ガイドラインや標準の策定に必要となるIT面の最新の知見を提供している。IT分野ではクラウドコンピューティングなどの技術的な進化が目まぐるしく、ESIの保存形式や管理システムも常に変化を続けている。IT関連の最新の専門知識を有さない政府機関や法律事務所だけでこのような変化に対応することは困難であり、IT企業がeディスカバリに果たす役割は今後も大きくなっていくと予想される。

     

    デジタルフォレンジック技術の活用動向

    eディスカバリ対策では、いざ民事訴訟の当事者に立たされた場合に備えて、法的証拠となり得る電子メールなどのESIを、適切な場所・適切な方法・適切な手順で管理・保管する体制を築いておくことが肝心である。こうした体制の確認・強化に効果的な技術がデジタルフォレンジックである。一般にデジタルフォレンジックとは、不正アクセスや機密情報漏洩などに起因する問題が発生した場合、パソコンやサーバ、ネットワーク機器などの電子機器から法的証拠となり得るデータを押収し、その証拠性を解析する技術および一連の作業を指す。従来は刑事訴訟で連邦捜査局[英語サイト](Federal Bureau of Investigation: FBI)などの捜査機関が利用する専門技術とみなされていたが、特許侵害や元従業員による機密情報漏洩などの民事訴訟事例の増加やFRCPの改正を背景に、導入する企業が増えている。

    デジタルフォレンジックが官民問わず幅広く利用されるようになったことを受け、米国ではデジタルフォレンジック技術を提供するIT企業が急増している。IT関連調査会社IDC社の報告によると、2004年には2億5,200万ドル(2012年1月の為替レートで約194億円)規模だった米国のデジタルフォレンジック市場は、5年後の2009年には6億3,900万ドル(約493億円)と3倍近くに成長。2011年にはさらに18億ドル(約1,387億円)超にまで成長すると予測されている。

     

    eディスカバリに関する法改正の新たな動き

    2011年末時点で、連邦裁判所の政策決定機関である米国司法会議[英語サイト](Judicial Conference of the United States)は、FRCPのさらなる改正に関する審議を行っている。審議の対象となっているのは、2006年の改正時のセーフハーバー条項と関連する、ESIの保存および制裁についてである。今回FRCP改正に向けた審議が開始された背景には、急速なIT技術の進展によりクラウドコンピューティングなど従来とは異なるIT環境におけるESIの保存・管理に関して具体的な規定を設ける必要が出てきたこと、また、不正な電子データの削除・改ざんの多発を受けて制裁強化の必要性が認識されたことなどが挙げられる。

    改正案は2011年4月に文書としてまとめられ、同年9月に関連機関に向けて発表された。2012年1月からパブリックコメントの募集が開始されており、今後はコメントを受けての修正審議などを経て、2013年に改正される予定となっている 。改正施行時には、2006年の改正時と同様、司法機関だけでなく民間企業においても対応に向けた動きが活発化すると予想される。特に、ESIの消失に関する制裁が厳格化されれば、デジタルフォレンジック技術に対する需要が高まり、さらに効率的かつ効果的なソリューションが求められることになるだろう。


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    掲載日:2012年01月30日

    投稿者:事務局